私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「副社長対抗派閥を中心に見てくれってさ。よろしくな!」

 松本さんがテキパキ指示出しして、ふたたびモニターに視線を落とすと、山田さんは静かに部署を出た。

「あんとき違和感を感じてたのは、原尾さんだけやないで。これを見てみ」

 猿渡さんは『美人』のファイルをクリックし、パスワードらしきなにかを打ち込む。するとそこには、顔写真付きの高藤さんのプロフィールが映し出された。

「すごい。ご両親や兄妹に、交友関係や女性関係まで事細かになんて……」

 思わず声をあげてしまうくらいに、詳細に記載されている内容に唖然とした。

「猿渡さん、なんで僕のを『美人』のところに入れてるんですか……」

「女にしたら、きっと美人だと思ったから。お金持ちのボンボンなら、『巨乳』に入れておくんやけどな」

(なんていう分類の仕方なんだろ。自分がどこに入れられているのか、不安しかない……)

「よぉ聞き。この女性関係の中に、本命がいると思ってる。ここでは暇そうにしていても、常に更新しとるからな。特に高藤は交友関係以上に女性関係が広すぎて、めっちゃ苦労してるから、僕の記憶に強く残ってるんや。ある時期を境に、ぱったりと女性関係の更新が途絶えてるし」

「高藤、素直に吐いたほうがいいぞ。みんなに知られたくないことを、この場で猿渡にゲロされて、困るのはおまえだろ。コイツは血も涙もない、冷たい男だからな」

 猿渡さんと一緒に松本さんも話に加わり、高藤さんを追いつめる。私なら、すぐに白状してしまう雰囲気だった。

「……彼女とは半年前に知り合いました。袴田工業社長の娘さんです」

 高藤さんのセリフと同時に、キーボードの叩く音が聞こえていた。

「松本ちゃん、株の値動き!」

「ここですでに調べてる。うーん、業績があまり芳しくない会社だな。家族構成はっと……」

 仲の良くないふたりの連携プレイに、思わず惚れ惚れしていると、原尾さんが言の葉を紡ぐ。

「会社の業績が思わしくないのをなんとかしてやるから、ここからデータを抜けって専務か常務に指示された?」

「いいえ、元の職場……。経営企画部の係長に言われました。経営戦略部のパソコンで保存してるデータで、プライバシーの侵害してるものを持ってこいって……」

 肩を落としてぼそぼそ語る高藤さんに、猿渡さんが大きなため息をついてから告げる。

「僕と一緒にここに来たとき、須藤課長はデータを抜かれたと言ったのに、高藤は画像と言った時点で、自分がやりましたと証言したということや」

(何気ない会話から、犯人を特定するワードが出ていたなんて、全然気が付かなかった!)
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