私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
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 短時間でシャワーを浴び終え、体にバスタオルを巻いた状態でリビングに戻った。

「なっ! 愛衣さんどうして、そんな格好で出てくるんですかっ!!」

 須藤課長はソファから腰をあげて、ぶわっと一瞬で頬を赤く染めた。

「須藤課長にですね、背中の手の届かないところを、ちょっと擦ってほしかったんです」

 言いながら須藤課長の目の前に移動し、くるりと背中を向けた。

「須藤課長お願いします。背中の真ん中辺りなんですけど」

 指定した場所を擦ってもらうには、少しだけバスタオルを緩めないと触れてもらえないので、バスタオルの上を少しだけ緩めかけた。すると大きな両手がそれを阻止するように、胸を鷲掴みする。

「!!」

「だーっ! わざとじゃないんです信じてください。思った以上に大きくてびっくりしてしまって、もうそれどころじゃなくって!」

 胸を触れた手が恐るおそる引き抜かれたあとに、床からゴンという鈍い音がした。振り返ると須藤課長が正座したまま、頭を床に擦りつけていた。

「須藤課長、頭を上げてください。私は気にしないので大丈夫です」

「俺は気にします! 誤って触れてしまったとはいえ、合意のない行為は犯罪級にダメなことです」

「私は触って欲しかったから、こんな格好でお風呂から出てきたんです!」

「へっ? 触ってほしかった、とは?」

 素っ頓狂な声で返事をしながら頭を上げた須藤課長に、思いきって抱きついた。

「愛衣さんっ! 刺激がぁっ、胸が見えそうで危ない!」

 私に触れないように両手をあげただけじゃなく、目をぎゅっとつぶって見えないようにする須藤課長の生真面目さに、思わず苦笑いを浮かべた。

「須藤課長、聞いてください。これは経営戦略部を守るために、しなければならないことなんです」

「どうしてここで、経営戦略部の名前が出てくるんですか? 全然関係ないじゃないですか」

「今の優しすぎる須藤課長だと、また襲われちゃうかもしれないからです。皆が……、私も心配してます。もし今度は大怪我をして、喋れなくなったり命の保証だって」

 須藤課長の体に回している両腕に、さらに力を込めた。

「愛衣さん安心してください。俺は絶対に負けるつもりはないです。今の状態でも攻撃を受けないように、きちんと手を打つつもりです」

 私から顔を逸らして、目をつぶったままの須藤課長からは、まったく弱々しさを感じられなかった。
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