私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「ヒツジちゃんおはよ! 肌の色艶がええ感じに見えるわ」

「えっ? いつもと変わりないと思いますけど……」

「かわっとるかわっとる。恋をすると、ホルモンバランスの調子も良くなるみたいだから、そのおかげやで。なぁ?」

「昨日よりも、綺麗になってルンバ!」

「あまりにかわいくなってるから、手を出したい衝動に駆られ――」

「高藤……」

 猿渡や原尾のセリフは見過ごせたけど、さすがに高藤はあぶないヤツ二位に君臨するだけある。

「愛衣さ…ヒツジ、急いでコーヒー淹れてください」

 記憶がなくなる前に戻さなければと、あえて名前を言い直して命令した。

「わかりました。須藤課長のコーヒーはどうしますか?」

 ブラックの気分じゃないときは、デスクの引き出しからカスタマイズしているのを、この間愛衣さんに見られた。ゆえに訊ねられたんだと思う。

「今日はそうだな、ミルク多めの砂糖なしでお願いします」

「ミルク多めですね。すぐにご用意します!」

 眩しいと思える笑顔を振りまいた愛衣さんが部署を出て行くと、松本が傍にやって来た。

「須藤課長、警備部から今回の突き落としの件で、防犯カメラの正しい数と設置場所を知りたいと連絡着たんだけど、知らせていいのか?」

「副社長からも知らせていいと言われているので、開示してください」

「わかった、行ってくる」

 昨日用意したらしき書類を目の前に見せてから、愛衣さんの後を追うように出て行った。

「松本の仕事は今の件でわかったが、報告のある者はさっさと名乗り出るなり、書類を提出してくれ」

 すると山田が挙手して、デスクから腰をあげた。

「すみません、書類を出したいんですが、裏をとったものも添付したいので、これから取りに行っていいですか?」

「かまわない。さっさと行ってこい」

 デスクに置いていたファイルを表に直して、昨日の仕事の続きをしようと視線を落とした。松本と山田以外、俺に話しかける者がいなかったことで、残ったメンツが昨日は仕事をしていなかったことがわかり、内心ガッカリする。

「原尾、ちょっとこの仕事を頼まれてくれませんか?」

 できないヤツをできる男にするのも上司の務め。気持ちをさっさと切り替えて、それぞれにふさわしい仕事を与えたのだった。
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