【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい
『待てよーっ!』と追いかけてくる数人の声と足音から、歯を食いしばり無我夢中で逃げる。
校舎を出ると、いつの間にか大雨が降っていた。けれど脇目もふらず、上履きのまま泥を蹴る。濡れることも汚れることも、もうどうでもよかった。
いつの間にか流れていた熱い涙は、降り注ぐ雨に冷やされ混じった。
あんなに大切にしていた髪をざっくり切られたこの姿を見たら、綾木くんにいじめられていることがバレてしまうかもしれない。
『はぁ、はぁっ……』
足に乳酸が溜まり息も絶え絶えになってきた頃、長い橋の中央で足を止めた。
雷鳴が、まるで自分を責め立てるみたいにどんどん近づいてくる。
不意に、綾木くんの声が急激に聞きたくなった。綾木くんの声に包まれたい。恋しい。
まるで藁にもすがる思いで寒さにかじかみ震える手でスマホを操作し、綾木くんの電話番号をコールする。するとすぐに電子音が途切れ、声が返ってきた。
『も、も、もしもし、あ、あ、綾木くん……?』
『ああ。梅子か』
『……ね、ねぇ、綾木くん、わ、わ、わ、わたしに好きって言ってくれない……?』
そのお願いに、彼はこの電話に大した意味もなく、わたしが構ってもらいたがっているだけだと解釈したのだろう。すぐに声音は他人行儀になる。
『今塾だ。構ってる暇はない』
『そ、そ、そ、そうだよね、ご、ごめん……』
一方的に電話を切り、雨音の中に電子音が響き渡ると、途方もないほどの孤独感に襲われた。