【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい
SHRが終わると、わたしは一斉にクラスメイトたちに囲まれた。
「森下さんってどこから来たの?」
「桃ちゃん、すごく大人っぽいね!」
などと、記者会見よろしく矢継ぎ早に質問攻めに合い、それは一時間目が始まるチャイムが鳴るまで続いた。
わたしに向けられる目に潜むのは、嘲りや侮蔑などではない。親しみを込めた、純度の高いそれだ。
以前の梅子だったらありえないまわりの反応に、驚きと感動を覚える。
そして午前中の授業が終わり、昼休みを迎えた。
今まではずっと、教室でひとりでいると目立つため、使われていない旧校舎のトイレの個室の中でひっそりお弁当を食べていた。授業中とは違い、だれもが自由に動ける昼休みは孤独であることがいっそう際立ち、わたしにとって一日の中で最も苦痛な時間だった。
けれど今のわたしは違う。クラスの一軍だと思われるキラキラした女子の集団に声を掛けられ、一緒に机を合わせて教室のど真ん中でお弁当を食べた。こんなに賑やかな昼休みは初めてだった。
「桃ちゃんさえよければ、うちらのグループ入らない?」
「えっ、いいの?」
「もちろん!」
お弁当を食べ終えた頃、そんな会話をしていると、陽キャ集団と見られる男子たちが会話に割って入ってくる。
「おいおい! お前ら、森下さんのこと独占しすぎ」
「いいじゃん。あんたたちに桃ちゃんは渡さないもーん」
そう言って、グループのリーダー格であるサラちゃんに後ろから抱きつかれる。
まさかだれかに取り合いされるなんて。こんな状況なんて初めてで、嬉しいやら緊張やら照れくさいやら、いろいろな感情がごちゃ混ぜになり思わず笑みがこぼれる。
「えへへ」
「もう、桃ちゃんってば、ほんとに可愛いんだから~!」
だれかとお弁当を食べたのなんて、いつぶりだろう。しゃべることだって、こんなにも楽しいことだなんて知らなかった。
もう吃音を心配することも、苦痛な昼休みを過ごすこともないのだ。果てのない洞窟の中のような暗黒の人生は、今この時のためにあったのかもしれない。
わたし、生まれ変わってよかった……!
込み上げてくる幸せを噛みしめながら、わたしはみんなとの会話を楽しんだ。