猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
けたたましく鳴き、足元を駆け巡る鶏たちは、なかなか迫力がある。

「鶏、たくさんいますねえ」
「ちょっとだよ。食べる分の卵取って終わり」

私から見たらたくさんの鶏だ。今朝食べた出し巻玉子は美味しかった。こうして鶏を放牧しているから、健康で美味しい卵を産むんだろう。

「この家を見て回ってんのかい?」

尋ねられ、おずおずと頷く。

「なるほど。若いお嬢さんがいきなり嫁にきても退屈だよな」

図星を突かれ、私はうぐっと詰まった。

「あんた生まれは?」
「京都です。でも子ども時分はずっと東京で過ごしました」
「それで訛りがないのか。最近まで関西にいたんじゃ遊ぶ連れもいないだろ。暇つぶしになるなら、鶏くらい見ていけ。お、そうだそうだ」

ご老人が手招きするので、ついて鶏舎に入ると、一番奥の藁が敷かれた一角に連れて行かれる。
そこにはぴよぴよとか細い泣き声をあげるひよこが五羽。

「ひよこですか?うわあ!」
「可愛いだろ、手に載せても大丈夫だぞ。逃がすなよ」

私は夢中になってしゃがみ込み、ひよこに指を差し出す。ひよこは物おじせず寄ってきて、ちょいちょいと嘴で指をつついてくる。こんなに小さいのに力が強い。ふわふわとした身体に触れると、あたたかくて幸せな気分になる。

「こんなに可愛いのは一瞬だぞ。あっという間にでかくなるんだ。鶏は」

久し振りに感じる小動物の温もりに、私の心はあっという間に緩んだ。

「あの何かお手伝いすることはありませんか?」
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