極上パイロットが愛妻にご所望です
「イエローナイフかぁ……。桜宮さんの操縦する飛行機で行ってみたいな……」

 そうひとりごちて、テーブルの上のカップふたつをトレイにのせる。私がひと口だけ飲んだコーヒーは空になっていた。

 彼は自分と私の分のコーヒー二杯を飲んだらしい。

 どこに口をつけたのかわからないけど、カップを手にして、飲み口に唇を当てた私だった。
 



『オール・エアー・ジャパン、ニューヨーク行き八三一便はご搭乗手続きを――』

 ざわざわとした喧騒の中、アナウンスの案内が響く。

 今日も羽田空港国際線ターミナル出発ロビーは、ビジネスマンや旅行客で賑わっている。

 桜宮さんがローマに飛んで、今日で四日目。本日、十四時三十分の予定で帰国する。あと三十分ほどだ。私は本当なら休日だったが、用事で休んだスタッフの代わりに、急遽遅番の出勤をしている。

 この数日、桜宮さんが気になってどうしようもなく、私は恋に落ちたのだと実感した。以前の彼は遠い存在だったから、姿がときどき見られるだけで嬉しい。それだけだった。

 でも、桜宮さんが近い存在になり、私はどんどん彼に惹かれている。気づけばいつの間にか彼のことばかり考えてしまっていた。

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