極上パイロットが愛妻にご所望です
***

 いつもの鳴る音にしだいに意識が浮上して、目を覚ました私はハッと肩を揺らす。

 夢……?

 部屋に桜宮さんの姿はなかった。しかし、ローテーブルにはカップがふたつ。夢ではなかったと思い直す。

 枕元で目覚まし時計が鳴っていて、現在の時刻は十九時。

 彼がセットしてくれたのだ。たくさん眠ると、中途半端に起きてしまい、また同じことになると考えてくれたのだろう。

 眠気に抗えなくて、寝ちゃった……。

 横になったら最後、目を開けていられなかった自分に大きなため息が漏れる。

 十九時かあ……。桜宮さんは会社に着いて、ブリーフィング中かもしれない。

「いってらっしゃいを言わなかったなんて、バカバカっ!」

 自分に怒りを覚えて、枕に顔を伏せた。

 桜宮さんとの会話の最後、イエローナイフがいいと、彼が口にしたのを思い出す。

 ひとしきり後悔し、顔を上げて何気なくテーブルを見ると、きれいに畳まれた温泉まんじゅうの包装紙の裏になにかが書かれているのが目に入った。

 ガバッと身体を起こして、その包装紙を手に取って見てみると、桜宮さんからのメッセージがあった。

『行ってくる。帰国したら、今度は俺の家に遊びに来いよ』と、美しく達筆な字で。

 完璧な恋人だ。彼のような人に、どうして自分が好かれたのかわからない。

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