極上パイロットが愛妻にご所望です
その彼女が朝陽に親しそうな笑みを向けて、なにか話し始めた。その姿を目にした瞬間、胸の奥がズキッと痛む。

 視線を逸らそうとしてもできない。

 彼女は身長がスラリと高く、朝陽と並んでいると、ファッション誌の一ページを飾るモデルにしか見えない。もちろん朝陽も。

 朝陽が笑いながらなにかを言ったようだ。彼女はペロッと舌を出して、CAの列に戻っていった。無邪気な笑顔は若さを感じさせる。

 ぼんやりしているうちに、目の前を朝陽が通り過ぎ、慌てて頭を下げた。

 彼が私へ視線を向けたかはわからない。

 全員が通り過ぎて、無意識に胸に手をやる。

 胸が痛い……。

 なんだろう。言いようのない不安感が押し寄せてくる感覚。
 

*** 

 その日の退勤後、私は約束の表参道のカフェへ急いだ。
 
 フライトがオフ日の久美と、土、日の週休二日という、規則正しい会社員の友莉子はもうカフェに着いているとメッセージが入っていた。

 朝陽はまだ上海に到着していない。フライト中は職務があるから、あの女性と接することもほとんどないと思うけど、帰国は明日のフライトだから今晩はフリー。

 あの雰囲気が気になっていて、夕食を一緒に食べるのではないかと変な勘繰りをしている私だ。

 こんなふうに思うのは、朝陽を信用していないみたいでダメなのに……。

 
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