屍病
桐山とのそんな会話を終えて、私は歯ブラシを手に、手洗い場に向かった。


世界がこんな風に変わってしまってから、どれくらいの時間が経ったのかはわからないけれど、あれから一度も歯磨きをしていないから。


「考えてみれば、お風呂も入ってないんだよね。どこかでシャワーでも浴びられたらな……」


手段がないわけじゃない。


どこかの民家に入って、お風呂なりシャワーなり、使うことは可能のはずだ。


だけどそれには危険が伴う。


そんな危険に、皆を巻き込んでいいものかどうか。


最悪、頭だって身体だって、工夫をすれば手洗い場でも洗えるから。


お湯は出ないけど、水で洗うことくらいは。


手洗い場に着き、歯ブラシを取りだした私は、それを水で濡らして口にくわえた。


シャコシャコという耳障りのいい音が、長い間聞いていなかったように懐かしく思える。


それにしても、やっぱり町は変わらないまま。


イーターが辺りをうろつき、空は暗い。


いつまでこの状況が……なんて考えること事態が意味のないことなのかな。


なんて考えていた時だった。


私の左側、階段の辺りがパッと明るくなったのだ。




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