お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
(なんだ…?)
今日はウォーレンが仕事を入れていない唯一の日であり、来客の予定もないはずだ。
不穏な胸騒ぎにまつ毛を伏せたメル。
門の前で止まった馬車から降りてきた人物に、メルは思わず目を疑った。
「リューデ王子…?…!」
それは、隣国の第一王子であるリューデだった。体格の良い護衛が、ゾロゾロと馬車から降りてくる。
いつもはにこにことおどけるはずのダンレッドでさえ、目の前の光景に言葉を失っているようだ。
王子が門をくぐったことで、はっ!と我に返ったメル。素早く首元のタイを締め直し、そっ、と告げる。
「私が話を聞いて参ります。お嬢様はここでお待ち下さい。」
「えぇ…、分かったわ。」
不安げに揺れるルシアの瞳。
そんな彼女に冷静に声をかけながらも、メルは動揺で心臓がバクバクと音を立てていた。
真剣な顔つきで部屋を出て行くメル。すると、ぐいっと燕尾服の裾が引かれ、肩に力強い手が置かれた。
「俺も行く。」
先ほどとは一変したダンレッドの鋭い表情。
屋敷には、張り詰めたような空気が流れている。
二人揃って玄関を開けると、そこには四、五人の護衛を連れた優美な男が立っていた。