お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
顔を上げた彼と、交わる視線。
日の光をキラキラと反射した薔薇色の瞳が、メルを映した。
曇りのない目。
幼いながらも凛とした顔立ち。
吸い込まれそうな瞳に思わず息を呑んだその時。メルの倍以上に目を見開いた少年の、ぽつりと呟いたセリフが耳に届いた。
「な、なんだあ。よかった、子どもか…」
「は…?」
予想外の一言に、つい声が漏れる。
すると、怪訝そうに眉を潜めたメルを見て、少年は、はっ!と我に返ったように声を上げた。
「あっ、ごめん!えっと…偉い大人に見つかったら怒られるところだったから、バレたのが子どもでよかったな、って。」
(もしかして、俺のことを言っているのか?)
彼は悪気など一切ないらしい。
子ども=自分だと理解すると同時に、少年はにこりと笑って言葉を続けた。
「びっくりさせてごめんね、ぶつからなくてよかった!君、お屋敷の人?名前は何ていうの?同い年くらいだよね?」
“苦手なタイプ”
素直な感想はそれだった。
無邪気を盾にしてずけずけと近寄ってきて、人の心の機微を察せない鈍感男。悪気がない分タチが悪くて好まない存在だ。
「名前はメル。歳は十六だけど。」
「うわ!一つ歳上だった!ごめんなさい!」
「別にいいけど。…それより、普通、自分から名乗るでしょ?」
「あっ、忘れてた!俺の名前はダンレッドです!十五歳です!」