ナナ
「俺の好きな人。」



これまでに聞いたことないくらいに低い声。



声を聞くだけで不機嫌なことがわかった。



「好きな人?ふざけないで。」


「ふざけてねぇよ。」


「付き合ってるの?」


「残念ながら今はまだ。俺の片思いだ。」



その言葉を聞き女の形相が変わったのがわかった。



嫌な予感を感じ女の行動を注意深く見る。



「お前ももういいだろ。解放してくれ。」



その言葉を皮切りに女が翔に向かって手をあげたのが見え、慌ててその腕を掴む。



「何よっ!離しなさいよ!なんであんたみたいなやつが翔の隣にいれんのよ!」



腕を離そうと抵抗する女。



「こういう女だから。それに翔が好きになったのは私だからよ。」



とその手に名刺を握らせる。



翔が隣で息を飲むのがわかった。



「なんなのよ!」


「あんたの知ってる男に広めたら?きっと喜ぶわよ。」



女の腕を離しぶっきらぼうに言い捨てる。



「翔、随分と注目されちゃったみたいだし今日はもう帰るわね。」


「あぁ。ごめんな。」



会場が騒然とする中視線を浴びながら会場をあとにする。



タクシーを捕まえて家の住所を伝える。



今日は災難だったわね・・・。



十中八九あの女は翔の許嫁。



あんな常識のない女が許嫁だったら翔も苦労する。



きっと甘やかされて育ったのだろう。



時間を確認しようとスマホを開くと通知が1件。



湊都からだった。



内容を確認すると刺青についてだった。



刺青で思い出しデザインや入れる場所を調べる。



悩んだ末、タクシーの中で答えは出ず、また後日考えようと家に入りすぐに眠ってしまった。
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