雨のリフレイン
「まぁ、そう言うと思ってた。
翔太、想定通りの答えだな」


水上は、当然といわんばかり。だが、翔太は諦めない。


「キチンと週休二日にして、休みには必ず帰すから。とりあえず洸平だけでも来てくれないか?」


いつになく真剣で強引な翔太。口説き落とそうと懸命だ。
そんな翔太に、頑なだった信子の気持ちも少し緩んだ。


「そうね。翔太先生の言う通り、横浜ならそんなに遠くないし。
洸平くんには負担かけて悪いけど…そうしてもらえると助かる」
「信子さん。
距離のことなら俺、全然問題ないんです。
たとえもしものことがあっても、車なら横浜からだってすぐに駆けつけられるし。
実は一番引っかかっているのは、横浜に俺の実家があるからなんですよ。
近くにいるとあの女が騒ぎそうで。
翔太に迷惑かけるかもしれないから」
「…あの女って?」


女性問題なのかと驚く柊子に、水上は低く掠れた声で絞り出すように答えた。


「俺の父の後妻。
そろそろ、父の遺産も食いつぶした頃だろう。しかも、あの女の息子が高校卒業する時期だし。なんやかんや言ってまた俺の前に現れるかもしれない」
「そんなに、大変なの?
洸平くん、あんまり話してくれないけど、私達、家族なのよ?話して?
一人で悩むのは良くないわ」


信子が水上の肩をポンとたたく。
水上は眉をひそめながら、目を瞑った。


昼間の、ウェディングドレス姿の柊子と、満面の笑みを浮かべていた信子を思い出す。
喜びを分かち合う家族。
二人に受け入れてもらいたい。
つまらない自分の過去を。
ほどいても、ちぎっても、絡みつく蛇のような女がまとわりついていたことを。


水上は、テーブルの上で両手を組み、その手を見つめながらポツリポツリと話はじめた。







< 132 / 302 >

この作品をシェア

pagetop