雨のリフレイン
柊子はキーケースにあった水上の部屋の鍵でドアを開けた。


「…本当に何もない部屋なのね。生活感ゼロ。まぁ、医者なんて寝るためだけに帰るようなものだものね。あなた、一緒に住んでるわけじゃないの?」
「ここは、元々水上先生のお住まいだったんです。最近は、母の負担を考えて隣の私たちの部屋にいらっしゃることが多いので…」
「…なるほど」


三浦は小さなダイニングテーブルの椅子に腰掛けると、小さくふうっとため息をついた。


「あなた達のおかげでせっかく会わずに済むと思ったのに。まさか、待ち伏せされるなんて」
「よほど三浦先生に会いたかったんですね」




急に黙り込んだ三浦。そっとうかがいみれば、今にも泣き出しそうな顔で俯いている。
どうみても、未練があるようにしか見えない。


「もう、4年よ。あの人がアメリカ留学してから。お正月の年賀状と誕生日にカードが届く以外の連絡もなかったのに。今更どうしろって言うのよ」

柊子に話しかけていると言うより、独り言のようにつぶやいていた。



「ただいま」


玄関のドアが開く音。洸平の声もした。
三浦はびくりと体を強張らせて俯いてしまう。


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