雨のリフレイン
マンションの家具は、そのままだった。
家具の配置も洸平が居た時とほぼ変わらない。リビングに飾られた写真立てのコーナーに、柊子の卒業式に三人で撮った写真が増えたくらいか。
だが、明らかに数日間帰っていない。テーブルにはうっすらホコリが溜まり、入れ替わっていない空気はよどんでいた。

信子が急変して、入院でもしたのかもしれない。

洸平は、慌てて光英大学病院へと向かった。

柊子が勤める外科病棟のナースステーションには、運良く師長の山田の姿があった。


「あら、水上先生?お久しぶりね」
「お久しぶりです、山田師長。あの、八坂…」
「あ、そうね。ちょっと待ってて」


山田は、何かを心得ているようで、ナースステーション奥から紙袋を持ってきた。


「これ、八坂さんの私物。
…待ってるわ。一日も早く戻って来てくれるのを。また一からビシビシ鍛え直してあげるから、心配しないでって伝えて下さい」
「え、あ…」

渡された紙袋を受け取ったものの、洸平は訳がわからない。
なんと尋ねたらいいのか、言葉を探して言いよどんでいると、背後の看護師が山田を呼んだ。

「山田師長、すみません」
「あ、今行くわ。
じゃあ、水上先生。八坂さんをよろしくね」

詳しく聞くこともできず、山田の後ろ姿を見送るしか出来なかった。

< 243 / 302 >

この作品をシェア

pagetop