雨のリフレイン
「翔太にも言ってるんだが。
俺は長生きするつもりはねぇ。向こうに待たせてるヤツらも居るし。
無駄な治療は要らない。寝たきりで意識もなくただ生き長らえるなんてもってのほかだ」
「待たせてる人、ですか?」
「あぁ」


亡くなった人を思い出した桜木の顔は穏やかで、でも底知れぬ寂しさをまとっていた。

ーーこの人も、大切な人を亡くした寂しさをいつも抱えて生きているんだ。

その想いは、柊子には痛いほどわかる。


「私は、もし今、亡くなったお父さんに会えたら、絶対言いたいことがあるんです。
“お父さん、意外に寂しい。
結構、頼りにしてたのよ”って。
桜木さんなら、今、会えたら、その待たせてる方に、何て声かけますか?」


思いもかけない柊子の問いに桜木は、キョトンとしている。


「そんなこと、考えたことなかったな」

考え込む桜木。
そこへ、次の検査の呼び出しがかかった。


「今回の入院中に考えておくよ。
柊子さん、退院するまでの宿題にしておくれ。
さすがは八坂さん自慢の娘さんだなぁ。
気に入ったよ、柊子さん。
早く死にてえって言えば、大抵のヤツらは『そんなこと言わないでください』と引き止めるのによぉ。
今、会えたら何て声かけるか。そんな問いが返ってくるたぁ、思わなかったな」





柊子は、この日から退院まで、桜木の希望で彼の世話係になった。
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