雨のリフレイン
外は本降りの雨だった。
柊子は折りたたみ傘を広げて、病院を出る。


水上と戸籍上は家族になった。
だが、生活はほぼ変わっていない。
元々お隣に住んでいるのだ。互いの合鍵を持っただけで、柊子は今まで通りの生活。

水上は大学病院勤務になり、忙しい日々が続いていた。
洗濯カゴに洗濯物が入っていて、作り置いてある食事がなくなっているから帰ってきてはいるようだが、もう一週間姿を見ていない。

でも、それでいいと思う。

きっとこの結婚は、一年で終わる。柊子が社会人としてひとり立ちできれば、終わる。
だから水上との思い出は、少ない方がいい。全てが終わった後、思い出して辛くなるから。



「あれ、八坂?」


病院のバス停で、すれ違った人物に声をかけられた。


「あ、圭太君。今、帰り?」


看護学部の同級生。
会っても不思議ではない。バスが通る大通りを挟んで向かい側に医学部の校舎、その脇に看護学部の校舎があるからだ。


「そ。レポートがなかなか終わらなくてさ。
八坂は?」
「母が今入院中なの」
「なるほど。大変だな。
今日は、もういいのか?もし良ければ、飲みにでもいかねぇ?愛美も誘うから」


母の具合が気になり、最近は友達と食事や飲み会に行くこともなくなっていた。
水上の夕食は既に準備済み。だから、帰ってからのんびりするつもりだった。その余裕が背中を押す。


「たまには…行こうかな」
「よし。じゃあ、“串まさ”な」


ここから一番近い、医学生や看護学生御用達の安くて美味しいお店。

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