恋叶うオフィス
ほどよい距離
爽やかな風が吹く五月二十五日。

『29歳のお誕生日、おめでとう!』
『おめでとう!20代最後の年、がんばって』
『29歳、おめでとう!良い一年になりますように』

日付が変わった瞬間から続々と届くメッセージに顔は綻ぶものの、ため息も出る。
本日、私渡瀬柚希(わたせゆずき)は29歳になった。

友人からのお祝いメッセージは単純にうれしいが、二十代最後の年であることは素直に喜べるかというと、腕組みにして頭を捻ってしまう。

私はアパレルメーカーの営業部企画課に勤務している。腕組みをした状態で立ち上がったばかりのパソコンを睨んでいると、パソコンの横に茶色の箱が置かれた。

その箱からそれを置いた人物、武藤直海(むとうなおみ)へと視線を移す。


「渡瀬、おはよう。誕生日、おめでとう」

「おはよう。覚えていてくれたんだ。ありがとう」

「もちろん。今夜食事でもと思ったけど、無理だった。ランチでいい?」

「あー、今夜は接待だものね。そんな気にしなくてもいいのに。一緒にランチしてくれるだけでも充分うれしい。ありがとう!」


武藤は隣の課である営業部販売課の課長であって、私の同期でもある。
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