恋叶うオフィス
麺を玉子にからめてふーっと息を吹きかけ、口に入れる武藤を大丈夫かなと見つめた。


「うん、おいしい! この味、好き」

「良かった……」


うどんの味を『好き』と言ったのに、自分のことを言われたような気がして、心が落ち着かなくなる。

お腹が空いていたようで、彼は箸を休めることなく食べていく。しっかり食べて早く元気になってもらいたい。


「片付けたら、帰るね」

「そうか、帰るのか。送ってあげたいけど……」

「今日の武藤は無理だよ。タクシーで帰るから気にしないで。明日の朝、また来るから鍵預かってもいい?」

「うん。明日も来てくれるのか……ありがとう」


拒否されたらやめておこうと思ったけど、受け入れてもらえて、よかった。病気の時は心細くなるようだ。

片付けを終えて、武藤の部屋に行く。武藤は天井をぼんやりと見つめていた。


「眠れないの?」

「ん……ずっと寝てたからか眠くなくて」

「そうだよね」

「そういえばさ、昨日のことだけど……」


突然昨日のことを言われて、私の顔は強張った。「なに?」と聞く声が上ずる。
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