恋叶うオフィス
「そうだ、武藤。私のこと、柚希って呼んでよ」

「うっ……けほっ……」

「ちょっと、大丈夫? ほら、お水」

「……あー、うん。平気……いきなりで動揺した……」


くるくると巻いたパスタを口に入れた武藤に話しかけたら、彼はパスタを喉に詰まらせた。急いで水の入ったグラスを渡した。

パスタを詰まらせる人がいるとは……。しかし、そんなに動揺すること?

水を飲んで落ち着いた武藤が困ったように笑う。


「わかった。柚希ね」

「うん、ありがと……」

「なんで照れるの? 柚希が頼んだのに」

「だって、簡単に口にするから。なんか照れるね」

「柚希も下の名前で呼んでね」


私は「えっ」と目を泳がせた。武藤が期待に満ちた目で見つめてくる。『直海』と言われるのを待っているのだろう。

だけど、期待に応えられない。


「そんな簡単には言えないよ。そのうちね」

「は? ちょっと、ずるくない? 俺に言わせて、自分は言わないの?」

「えー、いいじゃない。そのうち言うから、待っていて」

「はー、もう。俺、柚希に振り回されてる気がするけど」
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