恋叶うオフィス
ネックレスをもらって浮かれた気持ちは武藤の言葉によって、沈んだ。

桑田くんにネックレスを贈る意味を教えてもらっても、武藤はなにも変わらない。つまり、私たちの関係はなにも変わらないのだ。

武藤にその気がなければ、どんなに私が好きだとしても、私たちの距離が縮まることはない。

この好きという気持ちを伝えても、振られて、気まずくなるくらいなら今のままがいい。

里香に作ってもらった料理を食べながら、29歳になった私は愚痴をこぼしていた。


「あー、もう! なんでおめでたい誕生日にそんな湿っぽい顔してるのよ」

「だって、おめでたい年齢じゃないもの」

「柚希。ただ想っているだけでいいの? そろそろ勇気を出しなさい」

「無理! 勇気なんてない。当たって砕けるなんて、絶対に出来ないからね」


29歳にもなって、何を言っているんだと言われるかもしれない。当たって砕けて、次に行けと言われるかもしれない。

でも、砕けるくらいなら武藤を想っていたい。

ひとつ年を重ねてもなにも変わらない日の夜は、悶々としながら更けていった。
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