恋叶うオフィス
どうしてキスをしたのかと、聞きたくても聞けない。『酔っている』と言い訳され、後悔するように落ち込まれ、『ダメ』とキスしてはいなかったと断言されて……キスの意味を聞くことはできない。

きっと、意味はない。酔っていたから、たまたまそこにあった唇に口づけた……そんな程度に違いない。

自虐的な答えを導き出して、さらに気持ちを低下させた。せっかくの楽しい花火大会だったのにな……。

私たちの低いテンションと反対に花火大会はクライマックスへと盛り上がっていて、打ち上げられる大きさも速さも増していた。

花火鑑賞に集中できなくなった私たちは、目は花火に向いていても無表情だった。

やがて、最後の花火が打ち上げられて、夜の空に静けさが戻ってくる。


「終わったな』

「うん。武藤、すぐに帰る?」

「すぐ帰ってほしいみたいだね。なら、帰るよ」

「えっ、そういう意味で聞いてないから」

「うん、わかってる。ごめん、意地悪言った」

「うん……」


そんな意地悪を言われるのは初めてだ。いつもと違う彼に戸惑う。

すぐではなかったけど、ふたりで片付けをしてから、武藤は帰っていき、なんとなく寂しい夜になった……。
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