華麗なる人生に暗雲はつきもの




 社食は美味いと評判だったが、今の俺には味などどれも同じに感じた。



「……市川さん」



 どこを水野と重ねていたのだろうか、今では不思議だ。


 ただ、長い黒髪は水野を思い出させる。


 思い出したくないのに。



「えっと、榊田さん、この間は……」



「俺が彼女に振られたから、声かけたのか?」



 俺の前へと座ろうとするのを制するように言葉を被せた。



「そんなつもりじゃ!」



「随分、ちゃっかりしてるな。悪いけど、あんたみたいな女は絶対にありえない」



「私はそんなつもり……」



「本当に?」



 侮蔑の目を向けると、彼女は言葉を発することなく俯いた。



「人の隙に入り込もうとするなんて……」



「市川さん、ごめん。ちょっと、榊田おかしいんだ」



「た、高杉さん。私、違うんです。榊田さん、違うんです!」



「わかってるよ。榊田が全面的に悪い。向こうで君のこと待ってるよ。後で謝りに行かせるから」



 高杉さんが微笑むと、一瞬俺に視線を向けて逃げるように駆け出して行った。




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