華麗なる人生に暗雲はつきもの
「でも、あんたのことを心配していて、振られて今にも死にそうだ、って言ったら表情を曇もらせたけど」
俺のことを忘れてない?
少しは気にしていてくれている?
「仁曰く、小春は慈悲深いから捨てられたバナナの皮にさえ同情するらしいわ」
そうだ、水野はお節介なやつだった。
「榊田には何の未練もない、って力説された」
「……そのとおりです。水野は残酷なお節介焼きです」
捨てられたバナナの皮さえ気に掛けるならば、人間である俺も多少気に掛けても不思議はない。
「そう落ち込まない、バナナの皮くん。私には今でもあんたのことを好きに見えたわよ。仕事の話を聞きたがってさ」
「………………」
「榊田のことを少しでも褒めると本当に嬉しそうな誇らしそうな顔をするのよ、あの子。頬を染めて本当ににこにこ幸せそう。あんな顔を見せられたら榊田が夢中になるわけね」
俺ことを水野はちゃんと好きでいてくれた。
それなのに、愛情もすべて一瞬で吹き飛ぶようなことをしてしまった。
水野の中の少しはあったであろう俺との良い思い出や好きでいてくれた時の感情の残り香のようなものが俺の縋がれる唯一の部分。