華麗なる人生に暗雲はつきもの
「ごめんなさいね。この人、小春を取られるのが嫌でこんな不機嫌な顔して」
おばさんが嫌な空気を読みとり、場を変えようと笑った。
そんなおばさんのフォローも虚しく、威圧的な咳払いでおじさんが制し、
俊君、と低い声で俺の名を呼んだ。
俺は伸びていた背筋をさらに伸ばす。
「君は私との約束を破った。君を信頼していたのにこんな形で裏切られるとは思いもしなかった。結婚は到底認められない」
大学卒業間近に水野との結婚を軽く持ち掛けた時と同じ、絶対零度。
俺の得意技がまたもや見事に奪われた。
「子供の件は本当申訳なく思って……」
「いい加減な気持ちじゃないとでも言う気か?結婚前に子供ができて困るのは小春だ。仕事を君と同じようにしているんだぞ。職場での立場が君の軽みはずみな行為……」
「約束?私、そんな話聞いてない!余計なこと言って、榊田君困らせないでよ」
愛しの愛しの愛娘にこんなことを言われたら、通常モードならば涙を絶対流すおじさんだが、俺から奪い取ったと思われる絶対零度で水野を黙らせた。