華麗なる人生に暗雲はつきもの
「俊君のご両親はご存じないかもしれませんが、小春は幼馴染のあとを追って東京に出て行った子なんです。昔は引っ込み思案だった子が東京まで彼を追いかけて行く、それほど彼に夢中でした。夢中という言葉が陳腐に聞こえるくらい」
突然の話に思えたが、全員が黙って耳を傾けた。
「仁と言うのですが、私も妻も息子のように可愛いがっていて、いずれ二人は結婚すると思っていらし、それを望んでいました。でも、仁は別の女性と結婚して……」
お父さん、と水野が遮るのをおじさんが目で制して続ける。
何も不思議ではなかった。
水野の気持ちからしても。
水野を任せるには、十二分な仁の人柄。
娘の幸せを願う親ならば当然だと思う。
仁が水野の結婚相手として望まれていた、俺では不十分だと感じたって仕方ない。
頭では理解できるが、感情ではまったく納得できなかった。
そんな渦巻く感情を抱え、反論したい気持ちを留めるように握りこぶしに力を込めた。