華麗なる人生に暗雲はつきもの




 いつもの俺なら、そう、この女とやましいことがなかったなら。


 水野の手を引っ張って、無視するだろうに。


 そんなことをすれば疑われるかもと考えてしまい、動けないでいた。


 黙りこむ俺に女はあからさまな悪意を向けるのだ。


 その表情は、俺をいたぶることが楽しくて仕方がないとでも言うかのような醜いもので、ごくりと音を立てて唾をのんだ。



「なるほど、水野さんか。それにしても俊君は働いてても相変わらず女性に貢がせてるのね。俊君のメガネ買いに来たんだって?」



 俺の耳元で、でも水野に聞こえるように言う。


 早く、どうにかしなければ。


 あの時よりも状況は最悪だ。


 俺の裏切りの張本人がいて、俺はすでに水野を手に入れているのだ。


 あの時と失うものの大きさが違う。



「あっ、違います。榊田君の誕生日プレゼントなんですよ」



 にっこりと答える水野の肩に女は優しく手を置き、視線をまっすぐに合わせる。


 意地悪い笑みを浮かべて。



「そうなの?でも、入れ込まないほうが良いわよ。俊君は女癖が悪いから、すぐに捨てられちゃ……」



「こいつに汚い手で触るな」



 カッと怒りが込み上げ、女の手を強く掴みあげて睨み付ける。



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