華麗なる人生に暗雲はつきもの




「あら?それなら、あなたが触れることもイケないわよ?」



 快感に浸る女の手を乱暴に振り払うと、そのまま水野の手を引っ張った。


 人混みも視界に映らなく、何の音も聞こえなかった。


 ただ、ひたすら逃げるように歩いた。


 逃げながら、思考を巡らせる。


 水野はどこまで気付いた?


 俺とあの女が関係を持っていたことに気付いた?


 水野を好きだと言いながら、昔からの遊び相手に手を付けたことを。


 かつて隠し撮りされた、携帯の画像……

 あの女だと気付いただろうか?

 あの時、俺は姉貴の友達だと言った。

 ただの知り合いで、何もやましいことはないと。


 気付いただろうか。


 俺は水野を裏切ったと気付いただろうか?


 裏切ったあげく、水野を騙した。


 今でも騙している。


 もしも、全てが水野に知られたら?


 今、バレるわけにはいかない。


 こうして、ようやく手に入れたのに、失うことなんてできない。


 嘘に嘘を重ねても、何が何でも、手放すことなんかできない。


 水野を失うのではないかという、あまりの恐ろしさに五感がマヒしていた。














「…くんっ!榊田君!痛いったら!!」



 精一杯の力と言わんばかりに手を振り払われたことにより、俺は我に返った。


 我に返ると、いつの間にかデパートを出ていて大通りを歩いていた。


< 29 / 216 >

この作品をシェア

pagetop