華麗なる人生に暗雲はつきもの
「あら?それなら、あなたが触れることもイケないわよ?」
快感に浸る女の手を乱暴に振り払うと、そのまま水野の手を引っ張った。
人混みも視界に映らなく、何の音も聞こえなかった。
ただ、ひたすら逃げるように歩いた。
逃げながら、思考を巡らせる。
水野はどこまで気付いた?
俺とあの女が関係を持っていたことに気付いた?
水野を好きだと言いながら、昔からの遊び相手に手を付けたことを。
かつて隠し撮りされた、携帯の画像……
あの女だと気付いただろうか?
あの時、俺は姉貴の友達だと言った。
ただの知り合いで、何もやましいことはないと。
気付いただろうか。
俺は水野を裏切ったと気付いただろうか?
裏切ったあげく、水野を騙した。
今でも騙している。
もしも、全てが水野に知られたら?
今、バレるわけにはいかない。
こうして、ようやく手に入れたのに、失うことなんてできない。
嘘に嘘を重ねても、何が何でも、手放すことなんかできない。
水野を失うのではないかという、あまりの恐ろしさに五感がマヒしていた。
「…くんっ!榊田君!痛いったら!!」
精一杯の力と言わんばかりに手を振り払われたことにより、俺は我に返った。
我に返ると、いつの間にかデパートを出ていて大通りを歩いていた。