華麗なる人生に暗雲はつきもの
「う~ん、どっちにしよう?榊田君は決まった?」
ケーキの種類で迷っている水野の視線を追う。
チーズケーキとモンブランか。
「モンブランにする」
「それなら、チーズケーキにしよう。少し交換しようね」
さっきのことなど何も気にしていないようだ。
蒸し返すのはどうなのだろうか?
気にしてないように見えるが、実際は気にしているのだと思う。
俺の態度だって変だったし。
今のうちに弁明をするべきなのだと思うが、水野が離れていくことになりはしないだろうか。
もう騙しきるしかないのだ。
今さら、正直に話し、謝罪をしたって何の意味もない。
嘘に嘘を重ねていくしかない。
ずっと、こいつを大事にしてきた。
あれから、裏切ったことも騙したこともない。
最高の彼氏だと思ってもらえるような男でいた、水野が失望するようなことはしていない。
だからこそ、ただ一つの裏切りで、全てをなくすことなんかできない。
「眉間にしわが寄ってる。デート中にそんな顔しないでよ」
水野の拗ねた声で我に返る。
「あ?決まったんだよな。店員を……」
「もう呼んで、注文しました。ぼ~っとし過ぎ!」
どうして、こう不自然なことばかりしてしまうのだろうか。
「悪い。仕事のことが気になってな」
自分から蒸し返すことなんか、やはり出来ない。