華麗なる人生に暗雲はつきもの
水野の大好きなバウムクーヘンを持って。
水野のアパートには当然水野はいない。
合鍵で部屋に入るおじさんと、おばさん。
その部屋は、もはや生活感がない。
それでも、おじさんは信じがたく、じっと水野の帰りを待っていたらしい。
おばさんは呆れて、とっとと爆睡。
そして、翌朝、おじさんの泣き声で不愉快にも目を覚ました…らしい。
おばさんは、うんざりして俺に電話をかける。
水野とベッドでまどろんでいた俺がその電話に気付いたのは九時。
留守電を聞いた瞬間、本当に血の気が引いた。
もう、本当にすっと身体が冷えた。
慌てて、水野を起こし二人で水野のアパートに向かう。
春頃に水野は実家に帰った時、俺との交際は話したらしいが同棲は内緒。
絶対に殴られる。
殺されない程度に殴られるのはやむを得ないと、覚悟した。
水野のアパートの前に行くと、おじさんとおばさんが立って出迎えた。
おじさんは泣いていないが、俺を睨みつけた。
これがおじさんを恐れるようになったきっかけのように思う。
殴られると言うより、喰われると思わせる雰囲気を漂わせていた。
とにかく、険悪なムードが漂ったが、そこは無敵のおばさん。
お腹が空いたわ~とか言って四人で都心のレストランで早い昼食。
結果、同棲についての会話はされなかったし殴られもしないし、料理に毒が盛られることもなかった。
戦々恐々と二人が帰るのを見届け、その後、おばさんの電話で何故におじさんが何も言わなかったのがわかった。