華麗なる人生に暗雲はつきもの
その当時、女子大生が狙われる事件がニュースを賑わせていた。
それに不安を抱いての当然の訪問。
外のオオカミより内のオオカミのほうがまだマシだと思ったのよ。
おばさんはそう言った。
内のオオカミ…そこに突っ込みは入れなかった。
それは何故かはご想像に任せよう。
とにかく、卒業までこうして水野との同棲を黙認されたのだ。
同棲の心地よさに浸っていた俺は、また一人暮らし、しかも、気軽に会えなくなることを避けたかった。
マイナスイオン欠乏病にかかり兼ねない。
そんな矢先、大学の友人たちに卒業したら結婚するのかと思ってた、と言われたのだ。
卒業間近での同棲だ、一年から付き合っていると思っているやつらがそう思うのも無理はない。
そう、結婚すれば良いのだ。
思い立ったら即行動、水野の実家を訪ねた時、おじさんにこっそりお伺いを立てた。
その時のおじさんと言ったら、彼女の父親ということを抜きにしても怖かった。
もう空気が殺気に満ち溢れた。
絶対零度は俺の得意技なのに、おじさんに奪われたかのよう。
「まだ働いてもいないくせに調子に乗るな」
もはや、プロポーズすることもなく結婚の話はなくなった。
今にして思えば、おじさんが言ったことは正しい。
やはり、自分で養えるくらいには稼げるようにならなければ。
水野が結婚してからも働き続けるかはともかく、贅沢とは言えないながらも何不自由なく俺の稼ぎだけで暮らせるようになってからが良いと。
俺の予想ではあと、4、5年もあればマイホーム購入にも十分な頭金がそろう。
それまでは週末の逢瀬でたっぷりマイナスイオンを補給して耐えることに。
毎年欠かさず水野の実家を訪ねたことによって、俺は信頼を勝ち得た。