華麗なる人生に暗雲はつきもの
「私、榊田君との結婚って考えたことなくて。だから、この間見かけて。それで、いきなりで焦って」
「………………」
考えたことがないか。
こういう時に思い知らされる。
俺と水野の思いの差を。
大好きだと水野はいつも俺に言うけども、俺が水野を思う気持ちには遠く及ばないもの。
ずっと水野と一緒になりたいと、おじさんに気に入られようとヘコヘコ頭を下げて、同期が就業後を楽しむ中、俺は企画書の作成をして。
おじさんにも認められ、俺の企画書が評価されて、企画課への配属になって。
ようやく、結婚できると思ったのに。
その本人が結婚を考えたことがなくて、焦って、俺を避けて。
水野は俺のことを好きでいてくれることはわかっている。
それでも、俺が水野を思うようには思っていてくれなくて。
わかっている。
同じものを求めたりするのはエゴだ。
それでも、やっぱり憤りを覚えてしまう。
「それで色々、考えてたら、榊田君と顔合わせるのが心苦しくて……」
「結婚を考えたことがなくても、この三週間は考えただろ?それで、出した結論はそれか?」
俺が怒っていては話にくいだろうと、憤りを鎮める。
断られることがわかっていたから、自分をコントロールすることができた。
それでも、明確な理由が早く聞きたくて、水野の言いどもる話し方とは対照的に間髪入れずに返す。