華麗なる人生に暗雲はつきもの




「付き合って欲しいなんて言いません。一晩だけでも……それだけでも……わたし……」



 こういう女も珍しくはない。


 大人になればなるほど割り切った関係を求める女は多くなる。


 正直、一晩だけなら良いかと思う時は、そこそこある。


 それは男の性から来るものと、汚い好奇心と恨みから。


 仁ばっかり見ている水野を前日なんかに見てしまうと、その気持ちは大きくなる。


 俺が他の女と寝たら、水野はどんな顔をするのだろうと。


 仁の時のように死にたいと思ってくれるのだろうか?


 泣き喚いて、捨てないでとすがってくれるだろうか?


 それが知りたくて、仁ではなく俺のことで泣いて欲しくて。


 後腐れがない女なら手を出して見るのも一興だと、一部で囁く俺は確かにいる。


 水野以外の女に触れなくなってから久しくなればなるほど、水野と他の女を比べてみたくなる。


 そんなことを思う俺はきっと根本的に女にだらしがないのだろう。


 だが、現実的にその誘惑を退けることはたやすい。


 水野を失う可能性が少しでもあるようなことは俺にはできない。


 そのはずなのに。



「……一晩だけね」



 女の言葉を反芻する。



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