華麗なる人生に暗雲はつきもの
昨日の出来事が大部分であったが、この女がどことなく水野に似ているのも原因なのかもしれない。
告白をされる前からこの女と接する機会は多々あったし、俺への好意も感じ取っていた。
水野に全体的にどことなく似ていて、客観的に見ればこの女の方が綺麗で可愛いのだろうが。
とにかく、水野に似ているなと思って、少し親しみを覚えていた。
「それだけで十分なんです。榊田さんと過ごせた思い出があるだけで。お願いします」
女は遠慮がちに俺の腰へと腕を回してきた。
身長も、黒髪が胸まであって、やっぱり水野に似ていると思う。
水野の長い髪に触れるのが好きで、手持無沙汰にいじっていたことを、ふっと思い出した。
だから条件反射的に、いつものように水野の艶やかな髪を撫で、顔を近づけた……
そこで、現実に戻った。
水野が身に纏う香りとはまったく違っていたから。
俺を苦しいほど溺れさせるあのシトラスの香りとかけ離れていたから。
嫌悪感から、少し乱暴に引き離した。
どうやら俺は、どうしても水野のことがチラついてしまって、他の女にはお遊びでも手を出せない体質になってしまったらしい。
次に女の顔を見たら、水野とどこも似ていなかった。
何もかもが違っていた。
俺が好きでたまらない要素などどこにもない女しか目の前にはいない。