華麗なる人生に暗雲はつきもの












「……ね。…っ………さ…………だよ」



 微かな声と笑い声が俺の耳に入った。


 水野だ。


 俺は反射的に立ち上がる、まるで悪戯がバレた瞬間の子供のように。


 そんな子供が取る行動と同じく、窓と塀の間から動かず風景の一部と化した。


 つまりは物陰で水野にはわからない場所で立ったまま、近づいてくる話し声に耳を傾けたのだ。



「もう!仁くんの意地悪!」



「小春がそんな顔するから、からかいたくなるんだよ」



 声が鮮明になっていくにつれ、俺の思考は不鮮明になっていく。



「ほらっ!やっぱりからかってるんだ!ひどい!」


 叩く水野を宥めるように、頭を撫でる仁。



「可愛い顔が台無しだぞ」



 人がドアの前に立つと、より一層息を潜める俺。


 何故、こんなことをしているのだろうか?


 何故、俺が隠れている?



「もう、セットした髪が台無しじゃない!」



 胸まであった髪が、肩までばっさり切られていた。


 靄がかかった頭に、靄がかかったような心。


 何も見えない中で、何かが、大きな何かが蠢いているのを感じた。


 何故、二人が一緒にいる?


 何故、髪が切られている?




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