華麗なる人生に暗雲はつきもの




「似合ってる。小春は長い髪も良いけど、短い髪も似合うと思ってたんだ。素材が良いから」



「やっぱり仁くんが言うことに間違いはないね。初めてでドキドキしたけど、すっきりした」



 再び頭を撫でる仁と、仁をまっすぐに見つめる水野。


 ただ、まっすぐに仁だけを。


 二人の関係を知らないやつから見たら、恋人にしか見えない。


 割って入る隙間もない、そんな関係に。


 堪らず、視線を逸らし、空を見上げる。


 直視することは耐え難かった。










 水野の長い髪は俺への思いの表れだった。


 水野が短くしたがっているのも知っていたし、仁がそれを勧めていたのも知っていた。


 それでも、俺の意見を聞いてくれて、長い髪のままでいてくれて。


 本当は、長くても短くても何でも良かった。


 だけど、仁ではなく俺を選んで欲しくて、どちらを選ぶのかが気になって、それで強情に長い髪が良いと主張してきた。


 だから、長い髪でいてくれることは俺への愛情で、それがあるから仁とどんなに仲良くしていても我慢していられた。


 その長い髪を梳いて、口付けができるのは俺だけだとわかっていたから。


 目を背けても、笑い声が耳に入ってくる。


 憎い。


 殺してやりたい。


 何故、笑っていられる?


 どうして、そんな風に笑える。


 人の気持ちをズタズタに切り裂いておいて、どうして笑っていられる。


 長い髪と一緒に、俺のことも切り捨てたのだ。






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