華麗なる人生に暗雲はつきもの



 起き上がることもできず、砂利を噛みしめたまま、痛みに耐えた。


 どれだけの時間が過ぎたのだろう、本能的に顔だけを何とか動かすと。


 仁に抱きしめられている水野が視界に入った。


 その光景を見た瞬間、状況を嫌というほど認識させられた。













 触るな。


 痛みで忘れ去られていた怒りが燃え上がる。


 焼け付くような怒りが、身体を蝕んでいくようだ。


 あいつがいるからいけないんだ。


 仁がいるから、水野は俺を見てくれない。


 仁さえいなければ。


 いなければ。








 水野を見つめるその瞳を抜き取ってやりたい。


 水野を抱きしめるその腕を切り落としてやりたい。


 水野を夢中にさせるその全てを消してしまいたい。



「さ……わる…な」



 触るな。


 全て俺のものなんだ。


 触るな。


 砂利と血で汚れきった手を握りしめながら、立ち上がる。


 水野に触るな。


 焼け付くような嫉妬と怒りが俺を立たせたが、足が動かなかった。


 怒りで痛みなど感じないのに、身体は俺の言うことを聞かない。


 どうして、こんなことになるんだ。


 どうして、水野は俺の手を拒み、仁を求めるのだろうか。

 考えても考えてもわからない疑問が頭の中で渦巻く。


 仁さえいなければ。


 殺してしまいたい。


 ここまで心の底から湧き出る殺意は初めてだ。


 身体が動きさえすれば俺は間違いなくこの時、仁を殺していた。


 それなのに身体が動かないし、脂汗と血が目の中に入り視界さえぼやけていく。


 そのまま頭もクラクラし、自分が立っているのか座っているのかさえわからなく、何もかもがぼやけていく。





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