人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
奏多はそこまで話し切るとフゥと一息おいた
「そんで~、俺も中学無事卒業して高校に入ったってわけ~。俺がいじめられてたなんてびっくりした~?」
なんて、言葉をかければいいんだろう…
まぁ、でもありのままの言葉を話せばいいんだろう。
奏多と探り合いをしても無意味だ
この人は本当の言葉じゃないと信じない。そういう過去がある人は嘘の言葉に敏感だ
だって、あたしがそうだから。
「…ビックりはしたかな。だっていじめ側にいつもいるじゃない。あたしをみんなでいじってさ。」
「それは侵害だな~、愛情表現だよ。」
「独特な愛情表現だな。」
思わず突っ込んでしまったけど、空気が軽くなっていく
「まぁ、そんなこんなで今も蓮と一緒にいるんだけど。俺さ~、許せないんだよね…。」
許せない…?何が?
「ちーちゃんさ、蓮のこと拒否ったよね~?」
…確かに突然大蛇に襲われた夜、あたしは蓮が伸ばしてきた手を拒んでしまった
「…ごめん、何か言いたいけどこれは多分奏多の耳には言い訳にしか聞こえないと思う。だから、ごめん。」
あの時のことは反省している。突然のことに頭が冷静じゃなくて、オマケに蓮が狂気的に見えて蓮が蓮じゃないことにどう接していいのかわからなかった
でも、そんなのは言い訳でしかない
現に蓮が許しても、あたしは一度拒んでしまった
それは蓮を傷つけたも同然。
奏多の話を聞いた今蓮を傷つける行為をしたあたしを奏多が一番許せないことなんだろう。例え本人が許したとしてもだ
「はぁ~。嫌になっちゃうわ~、そうやって真っ直ぐに謝ってくるんだもん~。言い訳もせずにさ」
「だってホントのことだし。」
「…いいよ、ちーちゃんのことは許してあげる。でも、次…。蓮をまた傷つけるようなことがあったら、許さないから。」
「ッ、わかった。」
瞬間的に息を飲んだ
出会った頃の、蹴りつけられて初めて本性見せてくれた時のような目を久しぶりに見た
あれ以来ホントの殺気の籠った目で見られたこともなかったから咄嗟に自分の中の危険信号が反応した
額に暑さのせいか、殺気のせいか嫌な汗がじわりと浮かんだ