鬼の目にも慕情
「行ってきます」
こういうところ、たまらんな。
このまま抱えて連れて帰っていい?
「せっかくの地元だから満喫してきなよ。
お義父さんお義母さんにもよろしく」
「うん」
「あとバスに乗ったら連絡して」
「バスに乗ったら?10分後だよ!?
あ、もうこんな時間。
翔太君もそろそろ仕事行く準備しないと遅刻するよ?」
「だな」
由乃がスーツケースを引きながら、どんどん小さくなっていく。
ん?
なんだあの向かいから歩いてきてる男は。怪しいな。
あ、横断歩道の向こうに立ってる男も注意が必要だな。
くっそ。なんでこんなに男が多いんだ!
悩ましいな。
俺ができる事と言えば、ここから念を飛ばすことくらい。
いつ連絡が来てもいいようにスマホは肌身離さずに持っておかないとな。