独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
思いを込めて作ったバレンタインチョコを受け取ってくれなかった人のことを、いつまでも好きでいても仕方ない。樹先生のことはスパッとあきらめよう。
そう思ったものの、姿を見てしまうと胸が高鳴るのを抑えられない。
私は悪夢のバレンタインデーから九年が経った今でも、樹先生を好きだという気持ちを心から追い出すことができずにいるのだ。
そんな思いを知ってか知らずか。樹先生は薬局の通用口にふらりと姿を現す。
初めこそ、その意図がわからず戸惑ったものの、激務の合間を縫ってここを訪ねてくるのは息抜きのためなのだろうと思うようになった。
「華ちゃんもお疲れさま」
「お疲れさまです」
「はい。おすそわけ」
「ありがとうございます」
樹先生が白衣のポケットに入れていた手を出し、私の手のひらにイチゴ味のキャンディーをポトリと落とした。
クールな彼と、甘いキャンディーのアンバランスがおもしろい。
「西野さんもどうぞ」
「ありがとうございます。桐島先生はまだお仕事ですか?」
「今日は当直なんだ」
「そうですか。がんばってくださいね」
「ありがとう」
歩道を進みながら、ふたりが会話を交わすのをじっと見つめた。
高身長なうえに手足がスラリと長い樹先生と、美人でスタイルがいい西野さんが並んで歩く姿はバランスがとれていてカッコいい。