独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
一方の私は身長が百五十センチしかなく、童顔なのがコンプレックス。樹先生の隣に並んでも、年の離れた妹にしか見えないだろう。
つり合いがとれている西野さんがうらやましい。
私も髪の毛を巻いてパンツスーツを颯爽と着こなせば、大人っぽく見える?
モヤモヤした感情を抱いていると、病院の従業員専用の出入口前に到着した。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「はい」
頭の上にのった樹先生の手が優しく跳ねた。
う~。完全に子供扱いされてる……。
そう思っても、頭ポンポンは心地いい。瞬く間に頬が緩み、好きという感情が胸いっぱいに広がってしまった。
でも、まだ彼を思い続けていることは内緒。バレンタインデーに玉砕したときのことを思い出すと胸が張り裂けそうな痛みを感じるし、同じ人に二度フラれるのはさすがにつらすぎる。
樹先生は尊敬する医師であり、兄の友人だ。
自分にそう言い聞かせると、病院に戻っていく後ろ姿を見送った。
「桐島先生って優しくてカッコいいよね」
「はい」
西野さんと駅に向かって歩き出す。
「彼女、いると思う?」
「……わかりません」
カッコいい樹先生がフリーなわけがないと思う反面、心の片隅では彼女なんていないでほしいと祈ってる。
「今度聞いてみようかな」
「……」
彼女がいるとわかったら、ショックだな……。
胸がチクリと痛むのを自覚しながら、もらったキャンディーを口に放り入れると、駅の改札を通った。