同期のあいつ
鷹文に送られ、10時には家に帰った。
送ってくれた鷹文は家に顔を出すことなく帰ってしまった。

「ただいま」
「おかえり」

珍しく、お兄ちゃんも家にいた。

「あいつは?」
「帰ったわ」

いつもなら玄関まで送って挨拶して帰るのに、今日は車から降りなかった。

「あいつ、今日俺の所に来たぞ」
「へー」

なんとなく想像できた。鷹文なら、兄さんか父さんに会いに行くだろうなって。

「お前、知っていたのか」
「え?」
何をと聞こうとして、言葉に詰まった。

「浅井の御曹司だったこと」
やっぱり兄さんには話したんだ。

「どえらい秘密を隠していたもんだな」
「そうね」
本当に。

せめて相手がうちくらいの会社なら、他の選択肢だってあったものを。
相手が大きすぎて、現実味がない。

「どうするつもりだ?」
「どうもこうも。私に何ができるって言うの?」
「それでいいのか?」
「もー、お兄ちゃん、何が言いたいのよ」
あんなに鷹文との交際に反対していたくせに。

「あいつ、会社を辞めるんだぞ。浅井に戻ればもう会えなくなるかもしれない」
「わかってるわよ」
だからってどうしろって言うのよ。

「このままでいいのか?」
「だ・か・ら・お兄ちゃんは何が言いたいの?まさか鷹文を追いかけて行けって言うつもりじゃないよね」

今まで散々反対しておいて、鷹文の素性がわかった途端このままでいいのかなんて、おかしい。

「まあ、悔いが残らないようにするんだな」
「うん。わかってる」

たとえこのまま会えなくなっても、鷹文を好きになったことに後悔はない。
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