同期のあいつ
その日の晩、私は帰宅した兄さんを待ち構えていた。

「何だ、珍しいな」

ふん。
今は嫌みにかまっていられない。

「三和物産の件聞いた?」
「ああ、夕方営業部長と高田課長の連名で報告書が上がってきていた。それがどうかしたのか?」
「それ、私のせいなの。高田は悪くないのよ」
「ふーん」
不思議そうに私の顔を見ている。

「かなり大きな損失だし、うちの数字がもれてしまったってのも気に入らなかったが、お前だったのか」
うん。
「ごめんなさい」
「随分しおらしいなあ」

だって、私のせいで高田が叱られるのはイヤだから。
なんて口には出さない。

「問題になりそう?」
「原因が原因だから、問題にする役員もいるかもしれないな」
「そう」
それは、困った。
「兄さん、なんとか穏便に済ませられない?」
「・・・本気で言ってるか?」
「ええ」

いつも自分の素性を隠したいって言ってるくせに、困ったら兄さんに頼ろうなんて矛盾しているのはわかっている。
でも、今は他に手がない。

「いいだろう、なんとかしてやろう。でも条件がある」
「なに?」

何かとてもイヤな予感がする。
ニタッと笑った兄さん。とっても意地悪な顔。

「この間のお見合い、すすめろ」
「ええ?」
「曖昧なままなんだろ?」
「うん。まあ」

私も白川さんもお断りする事なく、かといってまた会う約束もなく今日まで来てしまった。
私としては先方から断って欲しいんだけれど。

「連絡しておくから、近いうちに会え。それが条件だ」
「それは・・・」
できれば避けたい交換条件。

「今回の件、下手すると高田課長の異動や転勤の話が出るかもしれないぞ。あいつも営業が長いからなあ」
兄さんが上手に脅してくる。

「ま、待って」
高田がいなくなるのはイヤだ。それも私のせいでなんて・・・絶対にイヤ。

「どうする?」
「わかった」
「逃げるなよ」
「わかっているわよ」
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