【完】君を一番美しく撮れるのは私




「もっと強調して。


…うん。いいね。

よしじゃあ確認して終わろう。」




_________



「終了。」


「はい!ありがとうございました!」


「お疲れ様。」



私はカメラ越しに何かを見るのが好きでカメラマンになった。


いいのが撮れるように自分のコンディションを整える。

私の自慢のカメラを中から改良する。

そして被写体の唯一無二の魅力を出すように先ず私が被写体を好きになる。


そうやって頑張っていたら

新庄に撮られたら売れる、

という噂が出るほどになった。


まぁ実際撮った人がドラマに抜擢されたりした。


でもそれはその人に魅力があったからであって、

魅力が無いのであれば元も子も無い。


そんなことを思いながらまたカメラマンの仕事に精を出す。


「モデルさん入りまーす!」


さぁ今日はどんな…


「よろしくお願いします!」


その子がお辞儀をすると長くてサラサラで艶々な髪が動く。


緊張しているのか顔が強ばっている。


なんてことはない新人のモデルさんだ。


でも何故だ。


普通にいる顔なのに…


撮りたい


そう思う前に体が動いていた。


「あれ、新庄先輩もう撮るんですか?

いつもモデルさんに合ったカメラ設定するのに…。」


「すぐ撮る。

多分途中カメラの直しする。

そのつもりで。」


「あ…はい!分かりました…!

お願いします!」



カメラ越しに歩いてこちらに来ているモデルさんを見た。


あぁ、やっぱりいい。


カシャ…


私は現場の裏が映った使えない写真を撮ってしまった。


今までこんなに撮りたいと思った事は無い。


どうしてだ。

私はこの子に何を感じたんだ。


私といつも仕事をするスタッフ達は、

私の初めて見る行動を見てザワついた。


でも全員プロだ。


直ぐに撮れるように準備をして合図する。


カシャ…

カシャ…

カシャ…


シャッター音だけが現場に響く。


その静寂はカメラ越しに集中させてくれるのに容易かった。


レンズ越しの女の子は一応ポーズを撮っている、

がやはり新人で動きに迷いがある。


でもそういう所にも惹かれてしまう。


全部撮りたい。

もっとこの子を…


そう思い無心に撮っているとカメラのメモリが無くなった。


強制的に終わってしまった。


「…

いじるから待って。」


私は一言言うと移動してカメラの中を見た。


でもどうだろう。


あの子を撮ったのに、どうやっていじったらいいのか分からない。


今まではパッと頭に浮かんでいたのに…


私は完全に行き詰まった。


どうすれば…


そう思いながらもう一回女の子を見る。


やはり撮りたいと思う事以外何も出てこない。


このままでは駄目だ。


早くあの子の魅力を見つけないと。


私は女の子に近づき話しかける。



「時間かかってごめんね。」


「いえ全然大丈夫です!

私の方こそポーズとかあれで良かったのか…」


「いや良かったよ。

でももう少し自信を持って自分を主張したらもっといいと思う。」


「う、嬉しいです!

頑張ります!」


「うん。




名前聞いてもいい?

何も知らないから。」


少しキョトンとしてから笑顔で答えてくれた。


「美心、浮時 美心(うきじ みこ)です!」


「浮時、美心…

うん。いい名前だ。」


「ありがとうございます!」


近くで見ると、

何故か今まで以上に分からなくなった。


スランプにでも落ちてしまったのだろうか。


でも凄く撮りたくて…


「ねぇ、

どう撮って欲しい?」


私がカメラマンになってから言ったことの無い言葉だった。


でもそうしないと何も決まらない。


女の子は少し驚いた後笑顔で言った。


「一番綺麗に撮ってください!」


「…分かった!」


私はカメラの元に戻りいじる。


よし、方針は決まった。





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