となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 「で、では、なんてお呼びすれば?」

 「何でもいいよ」

 「あの、ひ、ひ、広瀬ーーー 社長……」


 「だ・か・ら!」
 社長の目は、じろっと私を睨む。

 「む、無理ですよ」

 泣きそうになった時だ。

 「おまたせしました」

 真治さんが、運んできたパスタをテーブルに置いた。
 あー、助かったー。この人は、私を救う天使なんじゃないかと思った。


 目の前に出されたパスタに、怒られている事など忘れ、私の口はにっこりとなってしまった。

 「チッ」
 えっ? 今、社長舌打ちしたよね。

 でも、パスタの誘惑には勝てない。トマトソースのパスタを口に運ぶ。
 美味しいー
 ペペロンチーノも気になるんだよなー。チラっと、社長の食べている姿を見る。大きな口に、フォークに巻き付けたパスタをパクリと入れた。美味しそうに食べる人だ。

 「ほらっ」

 社長がペペロンチーノのお皿を差し出してきた。交換て事らしい。なんだか、自分の食べ残しみたいで申し訳ないと思ったが、社長はさっとこうかんすると、当たり前のように食べだした。

 ペペロンチーノのサーモンはたくさん残っていた。もしかして、私に食べさせようとしてくれたのかな? 本当は優しい人だったりして……



 時計を見ると、九時を回っている。このくらいの酔いなら、なんとか電車を乗り継いで帰れるだろう。

 社長に挨拶をしようと、少し構えて社長を見た。

 ふと、社長が生ビールを飲みたかった事を思い出した。なぜ、スパークリングワインになったのかは分からないが……

 多分、思っているより、私は酔っていて。美味しいもの食べて、少し有頂天になっていたのかもしれない。


 「広瀬ー社長。 今度は生ビール飲みに行きましょう」

 言ってしまった後に気づいた。
 私は、こともあろうか広瀬グループの社長になんて失礼な事を言ってしまったのだろう。
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