となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 無理矢理だとは分かっているが、俺は彼女をマンションへと連れてきた。あの、スマホのメッセージを見てしまった以上、彼女を家に帰すのは適切ではないと思った。


 だけど彼女は、俺の部屋に入っても、まるで人形のように動かない。どうしたらいい? こんな時に気を使える話術も持ち合せていない。


 カッコつけてもしょうがない……

 俺は、彼女に言った。

 俺は気かが利かない。だが嘘は言わないと……




 風呂から出てきた彼女は、気のせいか少し気の緩んだ表情をしているように思えた。

 やり残した仕事を始めたが、同じ部屋に彼女が居る。それだけで、俺の気持ちはなんとも言えない満ち足りたものになっていた。
 こんな時間を永遠に守っていきたい。心の底からそう思った。


 そろそろ寝ようと彼女に声をかけた。

 彼女は寝室に入ってこない。

 そりゃそうだな……

 

 俺は、彼女に背を向けて寝た。眠れない……
 背中が、ドキドキと音を立てる。
 こっちを向いてくれないだろうか? 願ってみても彼女は動かない……
 夕べの彼女を抱きしめて寝た感覚が蘇ってきて落ち着かない。


 俺は思い切って寝がえりを打った。

 ベッドの隅で、今にも落ちそうに丸まっている。

 俺は彼女を引き寄せた。


 「そんなギリギリの所で寝てたら落ちるぞ」

 「そんなに寝相悪くないですよ……」



 彼女は掠れた声でそう言ったが、俺から離れては行かなかった。

 俺は、彼女を抱きしめたまま眠りについた。





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