となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 肩を揺すられる感覚に目が覚めた。

 「起きて! 起きて!」

 なんだか、気持がいい……
 
 薄っすら目を開けると、彼女の顔があった。俺は、もう限界だった。
 真っすぐ腕を伸ばすと、彼女の頭に手をやり唇を塞いだ。
 最高な朝だ!


 『今日はもう起きているから大丈夫だ』

 秘書の高山に電話をした。高山が驚いているのは無理もない。
 時間になっても起きない俺を起こしにくるのは、高山の役目となっている。こんなに、寝起きがいいのは久しぶりかもしれない……



 俺は、アポをとった渡辺商事の社長と会った。
 社長は出来る人間だ。事情を説明すると、申し訳ないと何度も俺に頭を下げた。俺は、野村をうちの営業担当から外す約束を交わした。


 でも、なんだか落ち着かない……
 野村が、彼女をすぐに諦めるとは思えない。やはり、彼女をアパートに帰すのは危険な気がする。今夜もつれて帰ろう。
 俺は、彼女のアパートの住所をナビに入れた。


 「帰って!」

 彼女の声に、アパートの階段を駆け上った。

 今にも閉まりそうなドアを、間一髪で押さえた。


 彼女の今にも泣きそうな目が、俺を見た。
 間に合って良かった……

 後は、こいつをおおとしめるだけだ……
 二度と、彼女には近づけない!

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