となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
「そんなに驚く事はないだろ?」

 広瀬さんは、涼し気に微笑んだ。


「驚きますよ。私聞いてませんけど!」

 聞いてるとか聞いてないとかの問題なのか分からない。とにかく、状況を整理したい。いや、この人の頭の中を整理したい。



「言ったよ。友里もうんて頷いた」


「いつ? どこで?」


「真治のバーで言った。『俺と付き合えよ』って。そしたら、うんて頷いて寝ちまっただろ?」


 うーーっ。
 言葉が出ない。頭を抱えて、必死で思い出してみる。

 遠い記憶のどこかで、「俺と付き合えよ」と、言われたような……
 でも、返事をした記憶はない。


「あの…… あの時の記憶はあんまり無くて……」


 私は、とにかくこの数日間の出来事を把握したい。自分でよく分からないまま、このような状況になってしまっている気がする。


「そうか…… 覚えてないのか……」

 広瀬さんは、少しだけ寂しそうに、私の方へ目を向けた。


「ごめんなさい……」
 
 広瀬さんの姿に、思わず謝ってしまったのだが……


「まあいい! 俺と付き合えよ。 今度は、ちゃんと覚えていろよ!」


 ちょっと待って!
 この人は、本気で言っているのだろうか?




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