となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 「少し飲まないか?」

 片付けを済ませ、お風呂から出てくると、冷蔵庫から缶ビールを出しながら彼が言った。


 「はい」

 私は、今日買ってきたチーズと生ハムをお皿に並べた。


「おおー」

 彼は、嬉しそうな声を上げた。
 その声に、ちょっと嬉しくなった……


 二人で並んでソファーに座た。昨夜とは、がらりと変わった部屋に、気持ちが安らぐ気がした。彼も、そう思ってくれたらいいのに…… そんな事を願ってしまう。


 缶ビールで乾杯し、お風呂上りの一杯を頂く…… 美味しい……


「ああ!」

 彼が突然声を上げた。


「いきなりなんですか?」


「友里、これ全部お前が買ったんだよな?」

 彼は、部屋を見渡して言った。


「そうですけど……」

 彼は、慌てて寝室に入って行った。そして、何かを手にして戻ってきた。


「これを使え!」

 彼が差し出したのは、クレジットカードだ。


「いいえ! そんなもの預かれませんよ!」

 私は、両手をブンブン振った。こんなものいきなり渡すなんて、どういう神経の持ち主なんだ……


「これから、まだ必要な物あるだろ? 先に渡すべきだった……」

 彼は、がっくりと頭を押さえた。


「そんな、今日は服も買って頂いたし……」


「当たり前だろ!」

 彼は、私の手を取るとカードを握らせた。


「それに、私…… 部屋代、出せないし……」


「はあ……」

 彼は、大きなため息をついた。

「俺は、友里から一円だってもらうつもりはない…… 俺が、守っていく女だって決めてるから……」


「…………」

 私は、口にする言葉が見つからず、彼を見つめた…… 
 顔だけが、熱くなっていくのが自分でもわかる。


「必要な物はこれで買え。それに、これからも飯作ってくれるんだろ? 食費もこれで買えばいい」

 彼は、当然のように言うのだが……


「じゃ、じゃあ、もし私が、いっぱい、いっぱいこのカードで好きなもの買っちゃったらどうするんですか? 何百万とか?」

 私は、真剣に彼に言い寄った。こんなに、簡単にカードを人に渡すなんて考えられない。


「あはははっ。いいよ、そしたら、俺がいっぱい、いっぱい、働くから」

 彼は笑いながら言った。


「笑い事じゃないです! 私が悪魔みたいな悪い女だったらどうするんですか?」


 彼は、私を引き寄せてぎゅっと抱きしめた。


「それでもいい。一緒にいてくれるなら。 でも、悪い女は自分みで、悪い女(・・・)とは言わないだろ? それに、俺は友里を悪い女だとは思ってない。俺の感がそう言ってるから間違いない!」


「なにそれ?」

 私は、半分呆れて彼を見た。
 そんな私の頬を、彼は優しく撫でた。

 私は抱きしめられたまま、彼に唇を塞がれていた…… 

 熱い、熱いキスを交わし、ベッドへと倒れこむ……



 半ば強引に始まった彼との生活が、私にとって大切なものになっていくのだった……

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